現代アート考 第2回 令和元年7月19日(金)19:00~20:30

現代アート考 第2回
令和元年7月19日(金)19:00~20:30
第2回 入門編2 日本の現代アート・シーン
講    師   藤川  哲
会 場 山口情報芸術センター(YCAM)2F多目的室

参加人数14名
講座内容
最初に、前回のテーマであった「アートにおけるモダニズム」を振り返り、その後、椹木野衣『日本・現代・美術』(1998年)の「悪い場所」や、村上隆『芸術闘争論』(2010)の西欧ARTヒストリーを例に、欧米のモダニズムに対する距離の取り方を考察した。続けて、大浦信行《遠近を抱えて》、岡本太郎《明日の神話》、Chim↑Pom 《ピカッ》、ヤノベケンジ《サンチャイルド》を取り上げ、私たちの文化的感性を形成してきた作品や出来事の集積として美術史を記述する可能性を論じた。
参加者からの感想や、科目実施を通して学んだこと
1回目のモダニズムからポスト・モダーンアートへの歩みを受けて、対して日本ではどの様にアート・シーンが展開してきたのか、とくにポスト・モダーンと言われた80年代以降を対象に、椹木野衣氏の『日本・現代・美術』と村上隆氏の『芸術闘争論』をテクストにし、アート・ワールド(アーサー・C.ダントー)とアート・シーンの定義の違いとその脱領域化からはじまり、椹木野衣氏が掲げた「悪い場所」としての日本~これまで与えられた歴史の繰り返しで、ドメスティックな(ガラパゴス諸島的な)閉じられた円環~と、対して村上隆氏は悪い場所に安住し甘んじるのではなく、つねにアクティブにコミットし続けることでしか打破できなく、それには「西欧式ARTヒストリーへの深い介入可能な作品制作と活動」しかなく、それによって初めて西欧式ARTのルールも書き換え可能となるわけである。
ボイスのポスト・ARTヒストリ(脱構築)として拡張する社会芸術概念とも呼応し合えるものではないかと感じられた。
続いて、現代日本アート・シーンのケーススタディとして、1986年、富山県立近代美術館で展示されるも、天皇陛下と入れ墨の人物、人体解剖図を同列にコラージュして県議会・右翼団体などから抗議を受け図録の処分を受けた、大浦信行《遠近を超えて》、1968年に制作され2008年東京・渋谷駅のコンコースに設置された岡本太郎《明日の神話》、2008年、広島市現代美術館での企画展のために制作するも、被爆都市広島市民の神経を逆なでして物議を醸し出し中止に追い込まれたChim↑Pom《ピカッ》、そして昨年福島市の「こむこむ館」に設置するも、放射能防護服に身を包み0を示すガイガーカウンターを持たせていたことなどから、市民から風評被害を広める、また放射能値0は科学的にあり得ないなどの批判を受け撤去されたヤノベケンジ《サンチャイルド》と4作品を概観した。
このうち3作品はいずれも社会的に揺さぶりを掛け議論を呼ぶも、結局撤去又は中止・図録の焼却処分等を受けたもので、岡本太郎《明日の神話》も、のちにChim↑Pomの手で福島第一原発のスケッチを付加された経緯も含め(これはバンクシーの自作品シュレッダー処分パフォーマンスと同じく、ある意味予定調和的と見られるのでは?)このほかにも、会田誠氏の回顧展で展示していた《雪月花》への市民団体からの撤去要求や愛知県美術館「これからの写真」展における鷹野隆大氏写真作品の展示変更問題、ろくでなし子氏の起訴事件など表現の自由と権力側もしくは市民感情との軋轢の歴史である事も感じ取れた。
これらの事例から、日本の「美術」と「アート」という言葉にも注目してみると面白い。若林直樹氏『退屈な美術史をやめるための長い長い歴史』および椹木野衣氏『後・美術論』の冒頭で論じていた様に、例えば、現代美術家クリスチャン・ボルタンスキーの作品は、「美術」「アート」どちらとも捉えられるが、尾形光琳の《紅白梅図屏風》は、「美術」として捉えられるが、英語の「ART」ならともかく「アート」ととしてとらえられるかという椹木氏の問いにはじまり、日本語の「アート」とは和製英語で、その音感の好印象のみが独り歩きしているのでは~シニフィアンとシニフィエの乖離とも言うべき現象を起こしているのではと想起。この講義の冒頭に学んだアート・ワールドとアート・シーンの差異と同様とも思われる。しかしこれは決して否定的に捉えるのではなく、例えば前述のケーススタディの如くいわゆる社会に問題提起するものの、陽光を浴びることさえ赦されなかった「残念な日本美術史」とも受け止められるものや、アール・ブリュットなど無名なものすべてを包括し、権威化・制度化されパイの奪い合いに終始せざるを得なくなった狭義のアート・ワールドからの解放するものとして意義がアート(後・美術)に含まれていると思われる。
同時に、「残念な美術史」こそ、ポール・ヴィリリオの「事故の博物館」https://www.youtube.com/watch?v=A_A4z7Li8-0 の如くこれまでの美術史を揺さぶり、グローカルという言葉に象徴される、ローカルの、そしてフランス・アナール学派の手法に学んで micro hisutory(小さな歴史)からの逆照射と、マッシーモ・カッチャーリのアーキペラゴ(群島/多島海)という異なるサイトスペシフィカルな多様性を持った世界の集合として進化することが現代アート・シーンでもあることを学ばせて頂いた。